乳房痛の原因としては、大きく分けて乳腺疾患に伴うものとそれ以外のものがあります。
乳腺疾患としては悪性腫瘍(多くは乳がん)と良性疾患がありますが、病変全てに痛みが伴うわけではありません。
乳がんにおいて痛みを伴う場合は、がんの周囲組織への浸潤が著しいもの
(周辺臓器にがんが浸潤することによる固定や神経への浸潤による比較的強い痛み)
またはがんが乳管内を進展し異常乳頭分泌を伴うもの(限局された範囲の乳管拡張に伴う軽度の張るような痛み)
が考えられます。つまりは、誰がさわっても明らかに進行した乳がんとわかるようなものか、乳頭分泌を伴うものです。
乳房の良性疾患で痛みを伴うものとしては、乳腺炎や粉瘤(皮膚の腫瘤)の感染など乳房の炎症、腫瘤による圧迫や浸潤
(良性でも極まれに硬化性変化に伴う神経浸潤がみられる)、良性の乳管内病変(乳頭腫、腺腫など)に伴う
分泌物貯留や増大する嚢胞(乳管の伸展痛)、などがあります。
乳腺疾患以外の乳房痛の多くは、内分泌環境の変化、おそらくは性ステロイドホルモンの不均衡による乳腺組織の局所的浮腫
によるものと思われます。
その変化の場所により、例えば乳房の上の方(頭側)ならば乳房痛に加えて同側の肩こりとして、
わきの下側の乳房ならば脇から背中方向へのつっぱり感や上腕の痛みとして、乳房下内側では胸の痛みとして、
感じることがあります。さらにそこへ精神的な影響が加わり痛みが強調されてしまうことが多いのです。
多くの乳房痛の原因である女性ホルモンのアンバランスはどの年代層にも起こり得ます。
10代の女性の場合の多くは生理が安定していないことや乳房の発達の過程に伴う痛みです。
20代、30代の女性ではストレスに伴う内分泌環境の変化が原因であることが多いようです。
更年期周辺女性では乳房痛の訴えは特に多く、更年期の内分泌環境変化と不安定な精神状態に加え、
同年齢層者や身近な人が乳がんになったことなどの情報により、その不安と痛みは極めて大きなものとなってしまうことを
日常臨床でよく経験します。
その他全く別の原因としては、肋間神経痛(肋骨に沿った範囲で多くは片側の痛み)、狭心症の痛みなどもあり得、
時には胸筋の筋肉痛であった人なんかもいました。
しかし、これらを判断するにはできれば専門医の意見が必要であり、その際の鑑別診断には、問診、視触診、
マンモグラフィ、超音波検査などが基本となるのです。
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