乳房を失ってしまったあなた
失うかもしれないあなたへ
あなたがもし不運にも"乳癌"と診断され、乳房にメスを入れざるを得なくなった時、
あなたには乳房再建術を受けることができるという選択が得られます。
乳房再建の手術を受けるかどうかはあなた自身が決めることです。
それはより健やかになろうという純粋な気持ちから生じます。
また、乳房再建はあなた自身だけでなく家族や親しい人々に、あなたが乳ガンであったことを忘れさせるでしょう。
あなたが失いかけていたものを乳房再建によって再び取り戻す気持があれば、再建を考えて下さい。乳房再建により、
あなたが病気から解放されて日常生活に復帰することが容易になることもあります。
過去に乳房再建を行った女性たちは、
"水着や大きくカットの入ったドレスなどのお気に入りの服を着たいから。"
"プロテーシス(パット)の着用が、わずらわしいから。"
"家族や友達と温泉へ出かけたい。"
"孫と一緒にお風呂に入りたい。"
などの理由で再建を行い現実にあきらめかけていたこれらの夢を再び実現することができました。
選択の第一歩は、再建手術に関してできる限り詳しい情報を得ることです。
乳房再建には基本的に3つの方法があります。
1.人工乳房を使用する方法。
2.身体の他の部分から胸部へ皮膚と脂肪、筋肉を移植する方法。
3.1と2の併用。
あなたが受けた乳癌手術の大きさ、残存した組織の量などがどの方法を用いるかの目安になります。
いずれの方法を選択してもさらに乳輪、乳頭の形成術を行い完成します。各々について説明します。
形成外科の他の手術と同様に、乳房再建も患者さん一人一人により方法が異なります。
あなたに施行された乳房切除術の種類、術後の補助療法、皮膚と筋肉の状態、乳房の大きさ、その他の要素を考慮したうえで、
あなたにとって最良の方法が選ばれます。
1.人工乳房を使用する方法。
(1)"単純"人工乳房挿入法
患者さんが人工乳房を覆うだけの健康な大胸筋と十分な量の皮膚がある場合に用いられます。
この方法は乳房切除術の傷跡の一部を小さく切開し、大胸筋の下につくった空間に人工乳房を挿入します。
手術は約1時間で終わります。この方法は外来手術として可能ですが、全身麻酔下で手術が行われる場合は1〜2日入院された方が
お楽でしょう。
また傷は最初の乳房切除術の傷跡を利用して再建が行われるので、新たな傷は生じませんが、
切除術でできたものより目立たなくなるでしょう。
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1.乳房切除後の状態 |
2.人工乳房を挿入した状態 |
3.大胸筋下に挿入 |
(2)組織拡張法(ティシュ・エキスパンダー法)
大胸筋は残っているものの、反対側の乳房の大きさに合う人工乳房を覆うのに十分な皮膚がない場合には、
一時的に組織拡張器(ティシュ・エキスパンダー)が用いられます。この手術法では残った組織は徐々に延ばされていくので、
反対側の乳房につり合う大きさの人工乳房が挿入可能となります。全身麻酔下で乳房切除術の傷跡に切開を加え、
皮膚と筋肉の下にしぼめた風船状のエキスパンダーを挿入します。(エキスパンダーが乳房切除術を受けた際に挿入されることもあります。)
エキスパンダーを留置した後に滅菌した少量の液体(生理食塩水)を満たします。手術には1時間程度を要します。
術後4〜6週間皮膚を広げるために1週間に1回の割合で外来でさらに生理食塩水を加え、徐々にエキスパンダーを大きくします。
この拡張をおこなっている間も、患者さんはほとんど日常生活に支障を来たしません。
望んでいる大きさの人工乳房を覆うのに十分なまでに皮膚が伸びた後は、注入は終了しますが、
さらに伸びた皮膚が後戻りしないようにエキスパンダーを1カ月ほどそのままおいておくと、より柔らかな乳房になります。
その後エキスパンダーは、抜去され、永久人工乳房が挿人されます。これは一般には入院して全身麻酔下でおこないますが、
外来で局所麻酔下におこなうことも可能です。
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1.乳房切除後の状態 |
2.組織拡張器を挿入した状態 |
3.組織拡張器に液体を満たした状態 |
4.組織拡張器を摘出し人工乳房を挿入した状態 |
2.身体の他の部分から胸部へ皮膚と脂肪、筋肉を移植する方法。
自分の組織を身体のある場所から他の場所へ移動することによる乳房再建の方法で、これを「筋皮弁法」といいます。
(1)広背筋皮弁法
この手術法はより根治的な手術(定型的乳房切除術)
により大胸筋と広い範囲の皮膚に欠損を来し、鎖骨下やわきの下に凹みができてしまい、人工乳房だけでは再建が不可能な場合に用いられます。
患者さんの背中の皮膚と脂肪、筋肉を乳房切除術がおこなわれた部位に移植します。
胸部の前面に新しい筋肉をつくるために、背中の広くて平たい筋肉である広背筋を用います。
ドレーン(貯留液の排出用のチューブ)を手術後数日間留置します。手術には数時間を要し、約10日〜2週間の入院が必要です。
この手術法は胸部の乳房切除術による傷跡に加えて、背中にも傷跡を残します。これらの傷跡はなくなることは決してありませんが、
たいがいブラジャーに隠れる位置におくことができ、形成外科的な特殊な縫い方によりかなり目立たなくなります。
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1.広背筋皮弁のデザイン |
2.筋肉を切り離さずに腹部へ回転、移行 |
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(2)腹直筋皮弁法
この手術法も定型的乳房切除術により多くの皮膚と筋肉の欠損を生じた女性に用いられます。
垂直に走る腹部の2つの筋肉(腹直筋)のうち1つまたは両方の一部(約4cm)を、腹部の皮膚と脂肪を付けて乳房の領域へ移植します。
筋肉、皮膚、そして脂肪から成る皮弁を用いて乳房の輪郭が形作られます。
腹部の組織を胸部に移動することにより、胃の付近が締め付けられる感じがしばらく続くことがあります。
この方法では胸部の乳房切除術の傷跡に加えて、下腹部を横断する水平方向の傷跡を残します。
広背筋皮弁法と同様、この傷はパンティの中に隠れますがなくなることはありません。
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1.腹直筋皮弁をデザイン |
2.腹直筋を切り離さずに欠損部へ移行 |
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乳頭・乳輪の再建について
乳房の輪郭が再建されて数ケ月間を経てから、乳頭・乳輪の再建をおこなうことが一般的です。乳頭・乳輪を再建するためには、
再建した乳房の大きさや位置が落ち着いてからがよいでしょう。
乳頭・乳輪の再建にはさまざまな方法があります。手術には通常1〜2時間を要します。
最も一般的な方法としては反対側の乳頭、乳輪を半分移植する方法があります。
但し、この方法はこれから出産授乳の予定が考えられる方には適しません。そのような方には大腿の内側の皮膚が用いられます。
乳頭は新しく作られた乳房の組織を用いるか、反対側の乳頭の一部を移植することが一般的です。
陰唇の皮膚を用いて乳頭・乳輪が再建される場合もあります。再建された乳輪の色調が十分濃くない場合には、
色調を合わせる目的で入れ墨が用いられることもあります。
可能性のある合併症
すべての手術と同様に、乳房再建にも危険はあります。手術をする前にあなたは可能性のある合併症と副作用について主治医と相談すべきです。
異物である人工乳房に対して女性の身体が好ましくない反応を生じた場合には、合併症を来します。
約20%の患者さんに人工乳房の周囲に硬い線維性の被膜を来す被膜拘縮(こうしゅく)と呼ばれる問題が生じます。
その被膜は“野球ボール”のように非常に硬く変形し、不快感を来すこともあります。
拘縮は時間とともに軟らかくなり、身体に吸収されて改善されます。
形成外科医がマッサージでこの被膜を破ることにより、人工乳房は通常の大きさと形に戻ることもあります。
しかし、拘縮の解除のために手術が必要となる場合もあります。
他にも多くの可能性のある合併症があります。
乳房の部位に感染が生じた場合には、感染がおさまるまで人工乳房は取り除かれ、その後再挿入されます。
移植した皮膚の血のめぐりが悪く大きな領域が壊死したり、または一部の筋肉が生着しない場合もあります。
特に過去にお腹に手術したことのある方、喫煙者、糖尿病、肥満者にはこれらのリスクが高いことは確かです。
腹部の組織を用いた場合には、腹部にヘルニア(脱腸)を来す可能性があります。
乳房再建を考えている女性は、乳房切除術と乳房再建の手術創が個人により程度の差はあっても、永久に残ることを忘れないでください。
どのような種類の形成外科的な手術であっても、その最終的な結果を予測することは困難です。
けれど、医師も患者さんと同様、精一杯努力し誠心誠意再建手術を行おうとしていることは忘れないで下さい。
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Q&A
Q1. 再建した乳房は手術をしていない側の乳房と同じになりますか?
A1.
胸筋の下に人工乳房を挿入して再建された乳房は自然な乳房(手術をしていない側の乳房)と全く同じという訳にはいきませんが、
服や水着を着た場合にはほとんどわからなくなり、また人と入浴しても気づかれることはまずないでしょう。
再建した乳房はあまりとがらず、むしろ平らに見えます。再建した乳房は自然の乳房よりは垂れ下がらないので、若々しい形をしていますが、
年をとればたれてくるのは同じです。もちろん形成外科医は反対側の乳房に合うように再建しますが、大きさ、形、輪郭が、
瓜二つとなることはまれです。これは再建された乳頭と乳輪に関しても同様です。
しばしば手術をしていない側の乳房を修正することにより、よりバランスのとれた形になります。
自然の乳房に対する手術は再建と同時か、第2回目の手術の際に行われます。
その最も一般的な方法は、縮小術、豊胸術、および吊り上げ術です。
また再建術が終わって数カ月経ってもまだあなたが不満な部分があれば小さな手術で修正は可能です。
Q2. 乳房再建はどのくらいの費用がかかりますか?
A2.
乳房再建は美容の手術ではなく、乳房切除術後の回復に関わる矯正手術ですので大きな病院では保険を用いることができます。
但し人工乳房を使用した場合、これは自費(11万円位)で買っていただくことになります。
Q3. 乳房切除術から乳房再建までどのくらいの期間、待てぱ良いでしょう?
A3.
最も望ましい待ち期間に関しての定説はありません。
乳房切除術の手術創がよく治癒し、皮膚が可動性と弾力性を持つことが必要ですが、そのためには3〜6カ月かかります。
外科医によっては再建を遅らせる必要はないとする考えもあり、乳房切除術と同時に乳房再建をおこなう場合もあります。
化学療法と放射線療法をおこなう場合には、それらが終了するまで再建を遅らせる場合もあります。
再建手術の時期に関しては、あなたの気持ちも大切です。
再建が可能であることを知ると同時に、あなたは良く考えて決断をすべきです。
再建は乳房切除後、何年も経てからでも成功します。
Q4. 回復にはどのくらいの期間が必要ですか?
A4.
手術の大きさによりますが、ほとんどの女性は2〜3週間で日常生活に復帰できます。
しかし、精力的な運動をするまでには、さらに数週間が必要です。
Q5. 再建後も乳房の自己検診を続けるべきですか?
A5.
是非とも必要です。乳房再建はガンの再発の誘発も予防もしません。
再建後もあなたは定期的な身体検査と血液検査を続ける必要があります。
加えて、主治医の指示によりあなたは毎月両方の乳房の白己検診をしなければなりません。
Q6. 人工乳房は安全ですか? これは永久的なものですか?
A6.
これまで用いられていた人工乳房はシリコンの袋にシリコンジェルの入ったものでした。
これもきちんとした病院で、形成外科の専門医が、信頼できる業者から入手したものなら安全と言えます。
けれど、一連のシリコンスキャンダルによって、現在日本ではこのシリコンジェルの人工乳房が使用できなくなり
現在はシリコンの袋に生理食塩水を注入したものが使われています。
これですと万が一人工乳房が破れたり、漏れたりして内容物が流れ出ても生理食塩水は人体に全く害をあたえないからだといわれています。
また反対側の大きさに合わせて注入する量を変えることもできるようになりました。
シリコンジェルも日本で使用され始めて約25年ですのでもちろんそれから先の事は何とも言えませんが現在のところ、
安全性には問題ないと言われています。いずれにしても形成外科の専門医に相談することが大切です。
Q7. 人工乳房がガンの再発の発見を遅らせることはありませんか?
A7.
外科医と放射線診断医は身体検査と乳房撮影を用いることにより、人工乳房はガンの再発の発見にほとんど影響を与えないと考えています。
再建した乳房にガンが再発した場合には、皮膚の下に存在することが多く発見が容易です。
あなたがこれを読んで、もし乳房再建術を受けてみたいという気持ちになられたら形成外科の専門医に相談してみて下さい。
あなたの受けた、またこれから受ける乳房切除術とその結果に応じてあなたに最も適した方法をアドバイスしてくれるでしょう。
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