ちょっとだけ注意、しこったおっぱい

妊娠・授乳期の”乳房のしこり”には、どのようなものがあるのでしょうか。
最近22カ月間に当院を受診された妊娠・授乳期乳腺疾患の患者さん139名の診断と治療経過について検討してみましたところ、来院のきっかけとなった訴えの多くは乳房のしこりと痛みでした。診断方法としては、超音波検査が最も有用でした。
実際の診断は、妊娠期の方では13名すべてが、授乳に向けての生理的変化に伴うもので、授乳期では、乳汁うっ滞症80名、乳腺炎24名、膿瘍(乳房に膿がたまったもの)12名、乳瘤(乳腺内にミルクが袋状にたまり固形状となったもの)8名とほとんどが良性疾患でしたが、乳癌であった方が2名いました。
授乳期良性疾患の治療法としては、一般的には産婦人科・外科等で抗生剤投与を中心に行われていますが、当院では、抗生剤投与や切開排膿は授乳を中断させることが多く授乳期の母子関係に良い影響を与えていないと考え(授乳を中止することにより乳汁うっ滞を助長し悪循環に陥らせてしまう)、その方針は一般とは異なります(以下、具体的に)。
まず、乳汁うっ滞症とは、乳管(ミルクが流れてくる路)内に乳汁がよどんだ状態で、その原因の多くは、授乳後の飲み残しミルクの放置であり、これにより古いミルクが固形化し乳管をつまらせてしまうのです。それに対しては当院では、乳房の解剖を考慮したマッサージで治療しています。また、乳汁うっ滞の時間が長引くと乳管が狭くなってしまったり閉塞してしまいますが、この場合は乳管拡張術を行います。さらに乳汁うっ滞が長期化すると乳腺炎となってしまいますが、この場合も細菌感染をしていることは少なく、多くは乳汁うっ滞症と同様の処置で抗生物質の必要はありません。ここまでの治療で済ますことができればベターですが、乳汁うっ滞を起こさないことがベストです。そのためには日頃の乳房管理が大切です。
しかし細菌性乳腺炎では抗生物質の投与が必要になります。乳腺炎が悪化して膿がたまってしまったものが膿瘍で、多くの外科では切開排膿が一般的ですが、針を穿刺し吸引排膿、洗浄・殺菌を数日間繰り返して直す方法を行っています。しかし当院で行っている方法は保険診療では不可能であり、他院で行うことは現状では無理なようです(手間・暇・人手・器材が必要なため)。
さて、乳癌であった方ですが、2名とも30歳代で、ともに断乳時期に気付きましたが、乳汁うっ滞によるしこりとして1〜数ヶ月間のマッサージを受けており、来院されたときにはお二人ともすでにリンパ節転移がみられておりました。
乳癌をマッサージしますと癌細胞がリンパ管や血管に送り込まれてしまう(つまり転移を起こす)可能性が高くなりますので注意が必要です。是非、乳癌についての知識も身につけておきましょう。
 

乳がんは増えている!
近年、乳がんは急激に増加してきております。現在我が国で乳がんになってしまう方の数は年間およそ3万5千人(1990年で2万3千人)で、とりわけ40〜75歳に多くみられますが、20歳代後半から注意が必要です。日本人女性40人に1人の割合で乳がんが発症する確率です。

☆乳がんの診断と治療の進歩により・・・
昔、乳がんは不治の病とされてきましたが、診断技術の進歩により早期発見が可能となった現在では、早期(しこりの大きさが2cm以下で、転移のないもの)で見つければ90%の方は救命できます。またそれだけでなく、治療の進歩により、以前は乳房を全部取り去らなければなりませんでしたが、現在では早期のうちに見つければ乳房の形を残したままの乳房温存治療も可能となってきました。

☆乳がんから身を守るために
乳がんを早期発見するためには、自己検診(月1回)と乳がん検診(年1回、視触診だけでなく、乳房X線撮影や超音波検査も加えて)が大切です。早くみつければ、乳がんで命を落とすことも、乳房すべてを失うこともないのです。

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