第2回 乳がんにも個性がある
乳がんといっても、すべてが同じ性格ではありません。
人間の性格が十人十色であるように、乳がんにもそれぞれ個性があります。
まず、乳がんが発生する場所からみてみると、乳管上皮からできる「乳管がん」と
小葉上皮からできる「小葉がん」とに大きく分けられます。
頻度としては「乳管がん」が乳がん全体の90〜95%で、残りの5〜10%が「小葉がん」です。
そして「乳管がん」と「小葉がん」にはそれぞれ、「浸潤がん」と「非浸潤がん」があります。
「非浸潤がん」とは、がんの増殖がミルクの通り道の内側だけにとどまっているもののことです。
この状態では、がん細胞が血管やリンパ管に入り込んで流れ出て行ってしまう可能性は少なく、
がんの転移が生じることはほとんどありません。
しかし、がん細胞がミルクの通り道の壁を破って外に増殖を始めますと、
血管やリンパ管に侵入し転移を起こす危険性が高くなってきます。こうなってしまったものを「浸潤がん」といいます。
そして「乳管がん」のうちの「浸潤がん」、つまり「浸潤性乳管がん」の代表的なものが「乳頭腺管がん(20%)」
「充実腺管がん(20%)」「硬がん(40%)」です。
この3つのタイプで、乳がん全体の大半(約80%)を占めていますので、この性格についてご説明いたしましょう。
 「乳頭腺管がん」は、乳管壁の内側を這って広がる増殖形態をとり、ゆっくりとではありますが広範に進展しす。
したがって、でき始めはしこりとして感じにくく、乳腺が張った感じ、つまった感じ、生理前の硬さ、乳頭からの異常分泌、
といった症状が多く、診察上も分かりにくいがんです。
そして増殖が進んで病変が明らかになった時は突然大きなしこりとなって気付かれることがよくあります。
この中にはのんびりした性格(5〜10年もかけて成長するもの)のものもありますが、浸潤しやすく転移を起こしやすいものもあります。
 「充実腺管がん」は、膨張するように塊(かたまり)となって増殖し浸潤していくタイプのがんで、
ごろっとした硬いしこりとして気がつかれます。正常の乳腺では細胞どうしがしっかりとくっついており、
前述の「乳頭腺管がん」では比較的その性格を維持していますが、「充実腺管がん」では個々の細胞がバラバラになりやすく、
血管やリンパ管に入って飛んでいきやすい、勝手気ままな性格を持っているものが多いのです。
 「硬がん」は、他と比べて気短な性格で、早い時期から浸潤を起こし、周囲の組織に侵入し破壊していきます。
したがって、皮膚のひきつれやエクボ、乳房の縮小化など、乳房に変形を生じることの多いがんです。
しこり自体は非常に硬いのですが、周囲に脂肪のころもを着た状態になっている時期があり、診察上、
脂肪のかたまりであるといわれてしまうことがあります。
しかし「硬がん」の場合は、よく触ってみると脂肪の塊の中心深くに小さな硬い芯があり、
そのしこり全体をまわりから持ち上げるようにすると中心にエクボがみられることがあります。
 これらの性格はモザイクのように混ざっていることが多く、その中でももっとも主だった性格をもって
「〜がん」と診断名がつけられます。その混ざり方は様々で、全く同じ状態の乳がんは存在しないといっても過言ではありません。
 その他の乳がんとしては、浸潤がんの特殊型(粘液や分泌物を産生するタイプ、皮膚がんや肉腫等他の悪性腫瘍に似たものなど、
比較的まれながん)、パジェットがん(乳頭の皮膚浸潤を主体としたがんで、多くは閉経後の女性にみられる)があります。
 このように、「乳がん」といってもいろいろな性格のものがあり、さらにそれらの発見された時期の違いも加わると、
まさに十人十色です。
乳がん診療をする医師が、患者さんひとりひとりに対して、より正確な診断とより適切な(過不足のない)治療をするためには、
ひと昔前のような大雑把なやり方(悪性とわかったら乳房切断、根拠がはっきりとしないホルモン剤や抗がん剤の投与)を
するのではなく、がんの個性をふまえて診療にあたる必要があると思います。よりよい診療を受けたいとお考えであれば、
乳がんの専門医をさがして受診することが最良の選択でしょう。


 

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