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乳腺症は日頃の診療の中でも良く耳にする言葉ですが、その本当の意味や意義、どうしたらよいのか、ということについて説明を受けた患者さんはほとんど存在しません。それでは乳腺症であるといわれた方はどのように受け止めたらよいのでしょうか。
一般の方は「乳腺症」を、耳から聞いた印象から乳腺腫(乳腺のできもの)や乳腺の炎症と、あるいは家庭の医学を読んで前癌病変と思っていることが多いようです。
乳腺専門医以外の医師は、明らかな腫瘍はないと思うが何となく硬さがある、正常と言い切るには自信がない、思いつく診断がない、というような場合に、乳腺症と診断あるいは疑いをつけてしまうようです。また、慢性の乳腺炎と思っていることもあるようですがこれは違います(後述)。
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乳腺専門医として診療している我々のところにも「乳腺症といわれた」という患者さんが多く来院されますが、そのうち本当に乳腺症であったものは5%以下です。乳腺症とは、成熟期女性(特に30歳代後半から50歳代初め)の片側あるいは両側乳房に、痛み(女性のための乳房学の「乳房の痛み」を参照)を伴うしこりとして感じられるもののことであり、また本来はちゃんとした定義があるのですが、日常診療の中では前述のように、あいまいな診断名として用いられていることが多いのです。
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乳腺症の定義ですが、顕微鏡レベルの意味としては、増生、化生、退行などの病変が複雑にからみあって腫瘤をつくっている、ひとつの病変群のことで、腫瘍(乳房にしこりを見つけたら・・・を参照)や炎症ではないものをいいます。
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実際には病理学的に、アポクリン化生・閉塞性腺症・嚢胞・乳管乳頭腫症・線維腺腫症・小葉増生症・硬化性腺症というの7つの部分像があり、これらが複数複合してひとつの局面をつくったものを乳腺症といいます。部分像ひとつでは乳腺症とは呼ばずに、その部分像の名前が診断名となるのです。
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乳腺症の原因としては、相対的エストロゲン過剰(卵胞ホルモンが他のホルモンと比べて高めであること)を基調とする内分泌平衡異常、つまり女性ホルモンのアンバランスが関与していると考えられています。
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乳腺の良性病変における乳癌のリスクは、現在このスライドのように考えられています。つまり乳腺症の部分像の多くは、危険性なしあるいはわずかな危険率のみと考えられており、少なくともこれらが前癌病変であるとはいわれておりません。
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乳腺症の診断は、やはり視触診、マンモグラフィ、超音波検査が基本となり、乳頭分泌を伴う場合は乳管の検査、さらにMRI、細胞診などが用いられますが、診断の難しい場合は組織生検が行われます。しかし、乳腺症の診断はなかなか難しく、例えば、乳腺症といわれて当院を来院された患者さんのうち、本当の乳腺症であったのは5%以下で、90%以上の方は閉経前女性の充実した正常乳腺(厚みのある乳腺の硬さや部分的な乳腺の高まりを指摘されていることが多い)でした。また、その他の疾患として線維腺腫、乳頭腫なども含まれておりましたが、なかには進行乳癌(多くは乳管のなかを広範に広がる乳頭腺管癌というタイプ)までもが含まれていました。
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乳腺症の治療は、内科的治療として、食事療法(脂肪・カフェイン制限)、ホルモン 剤(ダナゾール)、漢方薬(桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、加味逍遥散、女神散など)が
行われることがありますが、基本的に外科的治療は必要ありません。
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以上のように、乳腺症といわれることはそれほどめずらしいことではなく、たとえ乳 腺症を疑われた場合でも正常あるいは良性のものであることがほとんどです。
しかし、なかには極めて診断の難しいものがありますので、乳腺専門医に任せるべき でしょう。
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